001

高校在学中、俺の身の回りでは不思議な事件が多々起こった。
最初は呪われてるんじゃないかと思ったが、それは後々に違うという事が判明した。
なんと驚く事に、俺は知らぬ間に魔法が使える体になっていたのだ。
不思議な現象が起こり始めたのが高校に入ってすぐの頃だったから、多分その頃から使えるようになってたんだと思う。
何故魔法が使えるようになったのかが分からずモヤモヤしていたある日、もしかしたら魔法学園に行けば何かわかるんじゃないかという親父の思い付きから、俺は魔法学園に通う羽目になってしまった。
さらに面倒くさい事に、どうせ行くなら魔法を究めてこいと言われ、厳格な親父にそう言われてしまっては拒否する事も出来ず、みっちり数年間は魔法学園に通う事となった。
というわけで、高校を卒業したら大学、という俺の常識はあっさり覆されてしまったのだ。

*****

入学して以来一番仲が良い友人であるスウリと、十分という短い休み時間を過ごしていた。
出会ってからまだ二日しか経っていなかったが、自分でも驚くくらい打ち解けた。
「ユズキ、聞いたか?校長すげー美人なんだって!見てみたいなぁ・・・。」
そう言うスウリの顔は少し綻んでいる。
「校長って女なのか?美人って言われるくらいだから結構若いんだろうな。」
正直言って年上すぎる女は恋愛の対象外だが、美人であるなら話は別だ。
是非顔を見てみたい。
本来校長であるならば入学式に参加するのが当たり前だと思うのだが、校長は一瞬たりとも姿を現さなかった。
その理由も結局分からず仕舞いで、俺達は式辞が書かれた書状を、白衣を着た教師が壇上で読み上げるのを聞いただけだ。
「かもな。あーぁ、噂だけじゃなんもわかんねぇなぁ。なんで入学式の時にいなかったんだろ?」
「急な用事で出かけてた・・・とか?」
思い当たる用事と言えばこれくらいだ。
冠婚葬祭だったら仕方がないとも思うが・・・実際のところどうなのだろう。
「もしかして面倒臭くてズル休み・・・とかだったりして。」
「ありえないだろ。入学式って重要なイベントだし、そんな理由で来ないわけないと思うけど・・・。俺ら外部だからわからない事だらけだな。」
「本当にそーだよ。去年の入学式はどんな感じだったんだろ。去年も休んでたりして・・・。」
「まさか・・・。」
そんなわけないと思いたいが、理由もなしに欠席では疑わざるを得ない。
チラッと聞いた話では、校長室に行けば普通に会えるとか言っていた。
今後姿を見せないのであれば、美人かどうかの検証も含め、会いに行くのも悪くない。
「あ、そう言えばクラブもう決めたか?」
「いや、俺はまだ・・・。スウリは?」
「俺はバスケ部に入る事にした。色々考えたけど、バスケが一番楽しくやっていけるかなーと。」
この学校は物凄く変な学校で、何故か校則で“クラブに入る”というのが含まれているのだ。
例外はなくて絶対に入らなければならないらしく、この一週間の内にどこかのクラブに入部しなければならない。
実は俺は人生で一度もクラブに入った事がない。
今まで入部しなかった理由は面倒臭いからであり、今もその気持ちは変わる事はないので、極力運動系のクラブには入りたくない。
楽そうなクラブを探しているのだが、どのクラブが楽かなんて俺には全く分からない。
「ユズキも入らないか、バスケ部。」
「俺はパス。文化系で何か良さげなクラブ探すよ。今日の放課後にでも探してみるかな。」
「ちぇー釣れない奴!ユズキ君ってば私の事が嫌いだったのねー!!」
下手な素人役者の演技よりも下手な泣き真似をするスウリに、顔を覗き込みながら言った。
「そんな事言ってないだろ。てかキモいからやめてくれ。」
「まぁいいや。せいぜいクラブ選びで悩むがいいさ。後でバスケ部入っときゃよかったとか言うなよ。」
「絶対言わないから安心してくれ。むしろ入らない事によってこの上ない幸せを掴める。」
「ひどっ!!泣くよ!?俺もう泣くよ!?そんなに俺の事嫌いか!?」
「あーごめんごめん。分かったからいい加減に立て。」
まるで俺が泣かしたみたいになっているスウリの両脇を持ち、無理矢理立ち上がらせた。
「ユズキィ・・・!」
そう言った途端冗談で抱き付いてきたスウリを宥め、まもなくチャイムが鳴った。

*****

歩き回って初めて気付いたが、この学校には聞いた事もないクラブが存在する。
ホスト部、ナルシスト部、アルバイト部、喫茶部・・・。
何をする事を目的としているクラブなのだろうと思わせるものばかりだ。
一度もクラブに入った事がないとはいえ、流石にそんなクラブが普通のクラブではない事ぐらいはわかる。
そんなクラブに入る人はいるのだろうかと思う以前に、何故そんなクラブを作る事を許可したのか。
いや、そんな事を言うのも今更かもしれない。
みんなは気にしていないようだが、よくよく考えればこの学園自体がおかしいのだ。
入学試験は一切なく、いや、ないと言えば嘘になるのだが、そんな簡単な事をするだけでいいのか、と気が抜けてしまう内容だった。
その内容とは、“自分の使える魔法を披露する事”。
つまり分かり易く言うと、魔法さえ使えれば誰でも入学が可能なのだ。
お陰で入学する前から試験合格は確定しており、あの時は受験日当日というのに緊張の欠片も感じる事が出来なかった。
俺としては入学条件がたったこれだけで、本当にこの学園で上手くやっていけるのかが心配だ。
噂では魔法さえ使えれば人間でなくても入学出来ると聞いた。
天使や悪魔は当たり前の事、兎や鳥などの動物も在学しているとか。
まぁこの学園にいる限り、嫌でも本当か嘘か近い内に分かる事だろう。
(いいクラブないかなー・・・。)
当たり前のようにクラブを探している俺だが、クラブが強制参加、というのも実におかしい話だ。
大体クラブに無理矢理行かせて何の意味があるというのだろう。
つくづく理解出来ない事ばかりだ。
この学園は運動部、文化部、その他のクラブが三対二対五の割合で開設されている。
是非とも文化系のクラブに入りたいのだが、残念ながらたったの二割しか開設されておらず、この中からいいクラブを探し出すのは難しいかもしれない。
驚く事に半分以上のクラブが生徒達の自分勝手な理由で作ったクラブという事になる。
どのクラブにも入る気になれない、そう思っていた時だった。
クラブ棟の廊下を歩いていたユズキは、思わず足が止まってしまうほどおかしなクラブを見つけた。

帰宅部。

クラブに所属していない人の事を世間では帰宅部と言うが・・・本当にそんなクラブを作る人がいようとは。
看板に書かれた帰宅部の文字をしばらく見つめ、ボケーとする事数秒。
背後から名前を呼ばれた気がした。
「・・・キ、ユズキー!!」
「この声は・・・スウリ?」
誰だろうと思いながら後ろを振り返ると、案の定そこには廊下を走るスウリの姿があった。
「何だよお前、その様子だともしかしてまだクラブ決めてなかったのか?」
「運動系以外だとろくなクラブないし、しょうがないだろ。」
「そうだけどさぁ・・・。」
「で・・・何の用?わざわざ走ってくるくらいだから、何か大事な用事があったんだろ?」
息切れ一つしていないスウリを見ると、流石体育会系と思ってしまう。
「それが・・・実はユズキに会いに来ちゃった!」
「・・・・・・あぁ、そう。」
「うわ、ノリ悪!もうちょっと友達思いになろうよ!」
冗談なんだか本当なんだかいまいちわからない友人の話を受け流し、もう一度同じ質問をした。
「本当に何の用?まさかその冗談を言う為だけに来たわけじゃないよな・・・?」
「違うに決まってんだろ!」
「普段から冗談ばっかり言ってるから勘違いされるんだぞ。」
「はいはい、すみませんー!!でもやめないけど。」
「いや、やめろよ。」
ここまで即答されるもはや口を挟む気にもなれない。
そして長い雑談の後、ようやく本題に入った。
「てか聞いてよユズキ!俺すっかり教科書販売の事忘れててさ、金持ってくんの忘れたんだよね。悪いんだけど貸してくれない?つか今金持ってる?」
「持ってるよ。いくら必要なんだ?」
「二千円。」
「じゃあ・・・はい、これ。」
そう言って俺はポケットから財布を取り出し、千円札を二枚スウリに渡した。
「悪ぃな。お礼と言っては何だが、明日二千円と一緒に破裂寸前まで膨れ上がった俺の愛をあげるからな。」
「いや、金だけ返してくれ。それ以上は望まないから。」
「だからノってよ!!惨めじゃん俺!!」
スウリの冗談に付き合ってたらキリがないので、可哀想とは思っているが、今回もスルーさせてもらう。
「・・・ってよく見たらここ帰宅部の前じゃん。」
「帰宅部の存在知ってたのか?」
「うん、まぁ。バスケ部の先輩から聞いた話だと、今年かなり多くの部員が卒業しちゃったらしくて、今まさに廃部危機らしい。今のところ部員は一人だけだってさ。」
「じゃあ後五日で部員三人集めなきゃ廃部確定って事?」
スウリはしれっと答えた。
「だろうな。あ、まさかとは思うけど同情して入部しようなんて考えてないよな?帰宅部入るくらいならバスケ部入って。」
「心配しなくても入らないから安心してくれ。て言うか俺が入部したところで人数足りなくて廃部だと思う。」
「ま、確かに。」
それにこんな怪しいクラブに入部したら、俺も変人の仲間入りとなってしまう。
良くて文化部、最悪運動部に入ろうと思っているので、残念ながら相当の理由がない限り奇人クラブには入りたくない。
ふと左手の腕時計に目をやり、ある事を思い出した。
「教科書販売って五時までだろ、確か・・・。そろそろ行かないとヤバくないか?」
「え、あ!じゃ、じゃあまた明日な!」
そう言うとスウリは慌てた様子で元来た道を走って戻って行った。
「さて、俺も行くか。」
自分だってのんびりしていられない。
まさかクラブに入部するだけでこんなに悩むとは思いもしなかった。
こんな事で時間を費やしたくはないので、どうにか今日中にいいクラブを見つけたいものだ。
夜も近付いてきた頃なので、ユズキは足早にその場を去った。

*****

どこに入部しようと散々悩んだ挙句、翌日の朝になってもまだ、ユズキは入りたいクラブを見つける事が出来なかった。
いい加減に入りたいクラブを見つけないと、スウリに馬鹿にされる上に冗談も言われる羽目になる。
しかし元々クラブなど入りたくはないのだから、決めるのに時間がかかるのもしょうがない。
と言っても、周りのみんなはどんどん決めていっているし、このままでいいわけもない。
どうしようどうしようと思えば思うほど余計に頭がこんがらがってくるだけなので、とりあえず一度他人の意見を聞いてみようと思う。
そう考えたユズキは学校に着いてすぐ、朝礼が始まらない内にスウリに質問してみる事にした。
「おはよ、ユズキ。」
「あぁ、おはよう。」
「・・・どうしたんだよ、朝っぱらから浮かない顔して。」
「・・・・浮かない?」
特に大事な事でもないのに思い詰めていたようで、いつの間にか浮かない表情になっていたようだ。
「それがさぁ、クラブがどうしても決まらなくて。」
「まだ!?まだ決まんないの!?」
予想通りの反応に、イラつきよりも焦りを感じた。
「もうどのクラブでもいいじゃん。適当に決めちゃえよ。どこのクラブ入っても一緒だって。」
「でも確か学園恒例イベントとかクラブのメンバーが集まって色々しなきゃいけないんだろ?全生徒絶対参加だし・・・。適当っていうのもなぁ・・・。」
大事なところで規則が緩く、どうでもいいところで規則が厳しい。
誰がこんな学校にしてしまったのか。
学園史について書かれた本があるなら是非とも読んでみたいものだ。
「あーぁ、面倒臭いなぁ・・・。」
「どーしてもクラブに参加したくないって言うなら、入部届だけ出してサボれば?イベントがある時だけ部室に顔出しとけば問題ないだろ。」
「問題はないけど・・・途中参加ってかなりの疎外感があると思うんだけど。」
「それはサボった分、我慢我慢!て言うかもうイベントもサボれば?生徒が一人参加してなくても誰にも分んないよ、多分。」
「お前、人事だと思って・・・。」
確かにイベントに参加していなくても教師には気付かれないだろうが、流石に生徒には気付かれるだろう。
俺が何もせずブラブラしていれば、俺の友達の誰かしらがサボっている事に気付く。
こういう類いの噂はすぐに広まるので、サボれば間違いなく教師の耳にも届くだろう。
「本当に早く決めた方がいいぜ、お前。このクラスでまだクラブ入部してないの、お前も含めて五人くらいだってさっき誰か言ってたし。」
「マジで?」
「超マジ。そんな慎重になる事ないだろ。たかがクラブだぞ。お前決めんの遅過ぎ。」
「みんなが早過ぎんだよ。俺はお前みたいに気楽に何でもかんでも決めたくないんだ。」
「気楽で悪かったな!」
それにしても、このままだと本当に入部届を出すのがクラスで一番最後になりそうな気がする。
別に問題はないのだが、自分の決断力のなさにガッカリする。
この学園は男子率が極めて高いので、大概の人は運動部の中からいいクラブを選んで入部しているに違いない。
しかしそうではない人達はどうしているのだろう。
運動が嫌いな人は何部に入っているのだろうか。
文芸部、美術部、茶道部・・・と文化系のクラブで普通のクラブはいくらでもあるが、どれも割に合わない。
未だクラブを決めかねている他の四人は、俺と同じような理由でまだ入部出来ずにいるのだろうか。
「直感でいいから答えてくれ。」
「何だよ?」
「俺は何部に入るべきだと思う?バスケ部以外で。」
「嫌味な質問の仕方をするな!で・・・ユズキが何部に入るべきか、ねぇ。つまりお前に似合うクラブって事だよな。そうだなぁ・・・昨日は否定したけど、帰宅部でいいんじゃね?廃部寸前だけど。」
帰宅部が俺に似合ってるという意味なのか、それとも俺の面倒くさがりを見抜いての発言なのか。
「お前に相談したのが間違いだったかなぁ。ま、参考程度に受け取っておくよ。」
スウリは頬を膨らませて言った。
「何だよー!俺は思った事を言ったまでだ!ユズキの言う通り、ちゃんと直感で答えた結果だ。」
「うん、ありがとう。」
「無表情で礼を言うな!あ、そうだ!二千円借りたままだったよな、はいこれ。」
そう言ってスウリは二千円を俺に差し出した。
「あぁ、そう言えば貸したっけ。・・・・・で、何で抱き付いてるのか理由を教えてほしいんだが。」
俺の胸に顔を押しつけて、気付かぬ間に痛いくらいスウリが抱き付いていた。
「昨日言ったろ?破裂寸前まで膨れ上がった俺の愛をあげるって。」
「俺もいらないって言っただろ。」
「まぁまぁ、そう言わずに受け取ってよ。減るもんじゃないし。これは・・・あれだ。お前に愛の伝え方を教えようとしているんだ。」
「そんなの伝授されたくないわ!!」
そんなこんなで結局、人に相談してもいい解決策は見つからないと悟った朝だった。


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